3種類の抗生物質(抗菌薬)を混ぜた混合薬剤を使って虫歯の細菌を死滅させる治療法です。
虫歯の治療は原則として虫歯になっている部分(細菌に感染している部分)をすべて削りとり、樹脂(レジン等)や金属を詰めるというものでした。
歯の中心部には神経(歯髄)という部分があり、虫歯の細菌が神経にごく近いところ、あるいは神経に達してしまった場合、通常の治療法では神経を取り除くことが原則です(抜髄)。
3Mix法は虫歯を一部残し、薬で細菌を殺して神経をとらずに治療するという方法です。
歯の中心部には俗に「神経」と呼ばれている歯髄と言う神経や血管が集まった組織があります。
この歯髄(神経)は一度細菌に感染すると炎症を起こしてしまい(歯髄炎)、回復せずどんどん悪化して最後には死んでしまう(壊死)という特徴があります。
従って、従来、細菌が歯髄まで達していて歯髄が炎症を起こしている場合は歯髄をとる治療が原則でした。
歯の神経をとるには歯をたくさん削る必要があり、歯が構造的に弱くなってしまいます。
特に奥歯ではあとで大きく金属などで覆うようにかぶせる必要があります。
また神経をとった歯は枯れ木のような状態であり、欠けたり変色しやすくなります。
以上のような理由からできる限り神経はとらずに残した方が有利になります。
そこで虫歯の細菌を薬で殺す方法が研究されました。
新潟大学の岩久正明教授のグループが3種類の抗菌薬でむし歯の細菌を殺す3Mix法を開発しました。
従来の治療法と違うところは虫歯を完全には除去しないで深い神経に近い部分はむし歯を残して3種類の抗菌薬を置き、歯科用セメントで密閉して細菌を殺すという方法です。
その後、仙台の開業医の宅重先生がこの3種類の抗菌薬を混ぜる時に使う薬剤や術式を改良し、3Mix-MP法が出てきました。
この3Mix-MP法では歯は虫歯の部分もほとんど削らず3種の抗菌薬をつめて歯科用セメントと歯科用樹脂(レジン)で封鎖するだけの「削らない痛くない1回で終わる治療法」と主張されています。
むし歯を削る量(残す量)が違う
抗菌薬 | 基材(剤) | 治療対象 | 虫歯を削る量 | |
---|---|---|---|---|
3Mix法 | メトロニダゾール シプロフロキサシン セファクロル | 歯科用セメント | 神経に近い深い虫歯 | 虫歯はできるだけ削る 神経に近い部分だけ虫歯を残す |
3Mix-MP法 | メトロニダゾール シプロフロキサシン ミノサイクリン | マクロゴール プロピレングリコール | すべての虫歯 | 虫歯もできるだけ削らない 虫歯も必要最小限だけ削る |
3種類の抗菌薬で殺菌をするという点では同じですが、3Mix法のセファクロルと3Mix-MP法のミノサイクリンが違います。もともと3Mix法の薬剤もメトロニダゾール、シプロフロキサシン、ミノサイクリンでしたが、ミノサイクリンと歯科用セメントの相性がよくないためセファクロルに置き換えられました。
オリジナルの3Mix法の開発者であられる岩久先生が
「最も効果的な薬剤は、合成化学療法剤のメトロニダゾールです。う蝕患部細菌の大部分が偏性嫌気性菌であること、メトロニダゾールがそれらの殺菌に極めて効果的であることの基礎的・臨床的研究がこの方法の原点です。」
引用:博愛歯科
と述べておられるようにメトロニダゾールが一番殺菌力が強いと思われますので、どちらも抗菌薬の差はあまりないものと思われます。
抗菌薬を混ぜる基材が3Mix-MP法ではマクロゴールとプロピレングリコールに変更されており、薬剤の安定性と組織浸透性を高めたと言われています。
術式や適応症の違いですが、3Mix原法では通常の虫歯治療でできる場合は従来通り虫歯をすべて削ってつめるよう推奨しています。
また虫歯が深く歯髄に近接しているか達していると思われ、3Mixの薬剤を使う場合でも岩久先生が
「う蝕の穴を修復する材料がしっかりと歯に接着して取れないためにも、あるいは歯の壁と修復材の間からの細菌侵入によるう蝕の再発を防ぐためにも、入り口には健康な歯を削って2mmほどの壁を作る必要があります。」
引用:博愛歯科
と述べられているように歯はそれなりに削って治療します。
一方、3Mix-MP法では日本歯科保存学会のHPから引用しますが
「この方法は岩久らの 3Mix 療法とは全く異なり、感染壊死組織の除去をほとんど行わず、3Mixで無菌化を図って、組織修復をうながすものである。
引用:日本歯科保存学会 3Mix-MP 法Rについての見解
口腔内の偏性嫌気性細菌感染症のすべてを対象にした内科的歯科治療の一つと位置づけられている。」
と書いてあるように、すべての虫歯が対象で歯をほとんど削らない治療法と説明されています。
虫歯の部分をすべて削っても神経(歯髄)が露出しないことが確実な虫歯では、虫歯はすべて削りとる従来通りの治療法でやるのが原則だと考えています。
3Mixの特徴は虫歯を残すということですが、虫歯の部分には歯科材料が接着しません。虫歯の再発(二次カリエス)を防ぐには歯科材料を完全に接着させることが重要です。少しでも接着をよくするためには虫歯は可及的に削り取らなければならないと考えています。
自覚症状が強くなく、通常通り虫歯を全部削ると神経まで達してしまうような深い虫歯、あるいは生えてきたばかりでまだ完全に歯が完成していない幼弱永久歯の深い虫歯で、神経が回復する可能性がある場合には3Mix法をやる価値はあると考えています。
その場合でも、虫歯はある程度削る必要があります。
3Mixの薬剤を効果的に効かせるポイントは密封性にあります。薬を完全に密封させるには上につめる歯科材料を歯にしっかり接着させなければいけません。
それには虫歯をある程度削らなければいけません。当然、削れば痛みを伴う場合もあり、時には麻酔も必要になります。
また100%確実な方法ではなく神経が回復不能なダメージを受けていた場合、後に神経をとらなければいけなくなることもあると考えています。
抗菌薬 | 基材(剤) | 治療対象 | 虫歯を削る量 | |
---|---|---|---|---|
当院のやり方 | メトロニダゾール シプロフロキサシン ミノサイクリン | マクロゴール プロピレングリコール | 神経に近い深い虫歯 | 虫歯はできるだけ削る 神経に近い部分だけ虫歯を残す |
何もしなくてもズキズキ痛い、冷たいもの熱いものがジーンとしみて痛みがしばらく持続する、レントゲン検査で明らかに神経に達しているなどの虫歯は基本的に3Mix法の適応ではなく、神経を取る治療が必要と考えます。
虫歯の部分に歯科材料は接着しません。良好な予後を得るためには良好な接着が必要不可欠と考えています。
従って虫歯はある程度削る必要がありますし、場合によっては痛みがともないますので麻酔が必要なこともあると思います。
3mix法は素晴らしい治療方法ですが、万能薬ではなく、「削らない、痛くない虫歯治療法」は、残念ながら現在まだ無いと考えています。
当院では3Mix法を希望する患者さんのみ同意を得て3Mix-MP法の薬剤を使うことはありますが、削る量や適応症が違うため、
当院の治療法はいわゆる「3Mix-MP法」ではありません。
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